海上保安庁機と日航機衝突事故の報道、広報への違和感


 1月2日に発生した海上保安庁機と日航機衝突事故についての報道、広報に対して私は強い違和感を感じています。

 まずこの事故において、海上保安庁機と管制官の責任については報道されたものの、日航機の責任に関してはほとんど触れられない点が1つ目。

 次に日航機の乗客が全員無事だった点は評価するにしても、ドアが開かれるまで6分、全員脱出まで18分も要したこと、そして怪我人が出たことに関しての詳細がほとんど報道されなかったことが2つ目。

  そして事故とは直接関係はありませんが、海上保安庁機で5名の死者と1名の怪我人、日航機で14名の怪我人が出たにも関わらず、日航の社長交代の会見やエアバスA350−1000の就航がおめでたムードで伝えられた点が3つ目です。

 これは報道のみならず、日航側の良識や広報のあり方にも問題があると言えると思います。

 1つ目の日航機の責任に関してですが、当時日航516便には機長、副操縦士のほか、副操縦士の操縦をチェックする査察操縦士が1名乗務してました。操縦室には3名のパイロットがいたわけです。
 そして海上保安庁機は日航516便のタッチダウンゾーン(接地帯)のすぐ先で40秒静止していました。日航516便が管制官から着陸許可が出たとしても、滑走路上に障害物がないかどうかを確認することはパイロットに義務づけられています。

 シミュレータ訓練においても、着陸直前に滑走路に地上作業車が侵入して、ゴーアラウンド(着陸復行)を行うような場面はしばしば設定されます。

 日航516便が操縦室窓の手前のスクリーンに飛行データを表示するヘッドアップディスプレイを使用していたかどうかは発表されていませんが、仮にこれを使用していたとしても、滑走路上の障害物を確認する義務があることには変わりありません。

  夜間のため、滑走路上の灯火により海上保安庁機の灯火が見えずらかったという点は否定できませんが、当日の視界は良好で、海上保安庁機が高輝度の白色ストロボライトを点滅させていたのであれば、ヘッドアップディスプレイを通しても容易に確認できたのではないかと想像します。

 かつての旅客機と比較して、A 350のような最新型のジェット旅客機はエンジンのレスポンスは極めて良好で、少なくとも50フィートの高度があれば着陸復行できたとういうのがプロパイロットの意見としてあります。 

  大型旅客機は機種上げ姿勢でアプローチしますが、接地寸前まで操縦室から滑走路を視認することはでき、最後の機種の引き起こしの際に滑走路を含む前方視界が妨げられます。
 
 従ってアプローチ中の日航516便の前方視野の中には、40秒近く海上保安庁機が存在し続け、機種引き起こしの際にその姿を見失った可能性は高いと思います。

 いずれにしましても、日航516便の3名のパイロットは衝突するまで海上保安庁機に気づかなかったのか、そうだとすると日航機側に責任はないのかというのが疑問として湧いてきます。
 
  次に日航機の乗客乗員に死者が出なかったことは賞賛に値することではありますが、90秒ルールが守られなかったにも関わらず、90秒ルールが功を奏したというような報道と、怪我人が出たにも関わらず乗員を手放しで賞賛するかのような報道には甚だ疑問です。

 90秒ルールとは米国連邦航空局(FAA)が定めた商用機の安全基準で、機内の全非常用脱出口の半分以下を使って、事故発生から90秒以内に乗客・乗員全員が脱出できるような構造で旅客機を設計し、運行する航空会社には乗員にそれを満たす訓練を行うことを定めた規定です。

 2007年8月20日に那覇空港で発生した中華航空B737型機火災事故では、このルールをもとにした乗員の避難誘導により、乗客・乗員全員(165名)が火災発生から60秒前後(国土交通省の報告は約2分)で全員機外へ脱出して、ひとりの死者も出ませんでした。

 今回はドアの開放まで約6分、全員脱出まで18分を要しています。この間に火災による爆発が起きれば、大惨事になっていたことでしょう。乗客の子供の叫び声が報道されましたが、私が乗客だったら同じ思いだったと思います。ドアが開くまで6分というのはあまりに長すぎます。

 決して日航機の乗員を批判するわけではありませんが、今回はカーボン素材による機体の延焼の具合において、たまたま運がよかったことと、乗客の落ち着いた行動が全員が生還できた大きな要因だったように思います。

 さらに14名の怪我人についてですが、怪我の具合によってはその後の生活に支障が出ることがあり、命に別状がないからといって決して無視できる問題ではありません。

 仮に脱出シュートによる落下時の怪我であるとすると、かねてより脱出シュートが地上に接する部分の段差が原因で怪我人を出してきたにも関わらず、いまだに改善されないという点も問題視すべきです。

 そして海上保安庁機で5名の死者と1名の怪我人、日航機で14名の怪我人が出たにも関わらず、社長交代の会見やA350-1000の就航のニュースが何とも華やかに伝えられた点に、この国の良識というものが随分と変わってしまったのを感じます。

 航空会社にとって乗客を安全に目的地まで届けるのが当たり前であり、今回の事故で海上保安庁機に死者、双方の機体に怪我人が出ただけでなく、多数の乗客に怖い思いをさせたわけですから、しばらくの間はおめでたムードの広報は控えるべきではないでしょうか。 

 日本航空のこうした体質が改善されたことを確認できるまでは、今後は日航機にはできるだけ搭乗しないつもりです。
(写真はSky-budgetより引用)

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