エアインディア171便の事故調査について


  6月12日に発生したエアインディア171便の事故の中間報告に関する情報です。
 
 初めに、この事故で犠牲になられた乗員乗客の方々、並びに地上で事故に巻き込まれて犠牲になられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 
 またご遺族や関係者の方々のお気持ちをお察しするに余りあるものがあります。
 
 事故機を撮影した画像から、同機のラムエアタービン(RAT)が展開していたことから、離陸直後に2基のエンジンの両方が停止したのではないかとの推測が当初より議論されていました。
 
 7月に入って、事故機は離陸直後、同機の両エンジンの燃料遮断スイッチ(Fuel Control Switch)が1秒以内に次々に「RUN」の位置から「CUTOFF」の位置に切り替わり、両エンジンへの燃料供給が停止したとの中間報告がありました。
 
 コックピットの音声録音には、パイロットの一人がもう一人のパイロットに、「なぜカットオフスイッチを押したのか」と尋ねる声が聞こえ、もう一人のパイロットは、「そうしていない」と答えたと報告書は述べているとのことです。
 
 約10秒後にエンジンへの燃料供給が回復し、自動再始動手順が開始されましたが、飛行機の墜落を防ぐのに十分な時間的余裕がなかったようです。
 
 そこでエンジンへの燃料供給がパイロットのスイッチ操作でカットされたのか、システムの誤作動でカットされたのかが議論されています。
 
 事故現場から同スイッチはRUN、すなわち燃料カットではなく供給される側の状態で発見されていますが、衝撃で動いた可能性もあるので現段階ではトラブル発生時にスイッチの位置がどうだったかは推測の域を出ません。
  
 そうした中、2019年1月17日、ANAのボーイング787−8(エアインディア機と同型機)が伊丹空港着陸後、逆噴射レバーを操作した途端に両エンジンが失火し、機体は滑走しながらエンジンが停止したアクシデントがあったことがわかりました。
 
 この際、機体は8000フィート滑走後停止し、乗客、乗員に被害はありませんでしたが、

 最終的にTCMA(Thrust Control Malfunction Accommodation)が原因の可能性に焦点が当たりました。
 
 TCMAは、エンジン推力や燃料供給に異常があると検知した際に、自動的に燃料を遮断して出力を減少させる設計です。
 
 TCMAは ボーイング787の全モデルとその派生型に導入された、次世代のフライ・バイ・ワイヤ機体専用のエンジン保護ロジックです。
 
 ANA機のTCMAは、地上での意図しない高推力は事故の元という設計思想の元に組み込まれていました。
 
 ANA機の場合、着陸後に機体のスロットルがアイドル状態で、なおかつ逆噴射で高推力という通常運用を、システムが暴走と誤認し、誤作動を起こした事例とのことです。
 
 ちなみに787より世代の古いボーイング747−400や747−8はアナログ/デジタル混在型の設計(従来型の操縦桿+ 電子式エンジン制御装置(EEC))であり、787のような統合的なフライ・バイ・ワイヤ制御ではありません。
 
 従って、従来機では 推力制御はEEC(Engine Electronic Control)が独立して行っており、TCMAのような機体システムと連携したエンジン自動介入ロジックは搭載されていません。
 
 なお英国民間航空局(CAA)は、墜落事故の4週間前にボーイング機における同様の燃料システムの問題について警告を発していました。

 FAA(連邦航空局)は、ボーイング機に搭載されている燃料遮断弁に影響を及ぼす潜在的な危険な状態に対処するため、耐空性指令を発行したと英国規制当局の通知には記されており、B737、B757、B767、B777、そして今回の事故機と同型のB787が対象とされていました。
 
 燃料制御スイッチはスロットル制御モジュール(TCM)内に設置されていますが、事故機においてはでは2019年と2023年にTCMが交換されました。
 
 さらにエア・インディアは2018年にFAA(連邦航空局)の勧告があったにもかかわらず、燃料スイッチのロック機構を検査しなかったとのことです。ただし、この勧告は義務付けられていなかったとのことです。
 
 A I171便の現在の事故調査の発表の仕方が、パイロットミスを匂わせるような表現との指摘があり、批判が集まっていますが、上記のようにシステムのエラーで起きたとするとパイロットに対する著しい人権侵害であり、同時に787の設計に大きな問題があることが考えられます。

 かねてより航空事故調査に利害が絡むことが指摘されており、今回のエンジンへの燃料供給カットが人為的に起こされたのか、システムのエラーかによって責任の所在が大きく変わります。

 なお機長は15000時間以上の飛行時間を持つベテランで、人格的にも非常に優れた人物で、周囲から信頼されていたとのことです。航空身体検査等にも合格しており、乗務するにあたり、問題はなかったようです。
 
 余談ですが、私はボーイング737MAXの事故以来、近年のボーイング社の経営と設計理念に疑問を持っていました。元々家族的な企業風土で安全設計に力を入れていた同社が、マクダネル・ダグラスとの合併の後にマクダネル・ダグラス社の経営陣が乗り込んできて、乗客よりウォール街の株主の方を向くようになったという指摘を聞き、なるほどと思いました。
 
 とりわけボーイング737MAXの2度に渡る大事故の際には、安全より利益を優先する同社の経営体質を垣間見る思いが致しました。
 
 また近年のフライバイワイアという設計思想により、パイロットのシステムへの介在がかつてよりも許されなくなり、かつてはエアバスでその弊害が指摘されましたが、今やボーイングも同様の問題を抱えるようになったような気が致します。
 
 事故機に搭載されていたジェットエンジン、トレント1000などの次世代エンジンは、複雑な推力制御が必要であり、TCMAによる過推力や推力不一致の自動制御が重要視されています。
 
 こうした複雑なロジックはかつての飛行機にはなかったもので、安全性の追求が、逆に人の介在を許さないシステムのブラックボックス化による潜在的リスクを誘発しているのではないかと懸念する次第です。
 
 最終的な事故調査は、DFDR(デジタルフライトデータレコーダー)の解析などを待つ必要がありますが、パイロットミスを匂わせるような憶測は現段階で避けるべきだと思います。
操縦室の写真は”Photo by Alex Beltyukov, licensed under CC BY‑SA 3.0”

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