沈没船ジョークと日本人

 2021年に開催された東京五輪のボランティアの募集開始を伝えるニュースを2018年頃に目にして驚きました。何に驚いたかというと、あるニュース番組でアナウンサーがタダ働き同然の東京五輪ボランティア募集の呼びかけを笑顔で伝えていたことです。
  ボランティアには1日交通費相当の1000円のプリペードカードしか支給されないという問題や、猛暑でのボランティア活動の危険性について触れることがありませんでした。そもそもIOC(国際オリンピック委員会)は民間の組織です。民間組織の利益追求に、何故日本人がタダ働き同然を強いられるのでしょうか。

 東京五輪ボランティアの問題点は今更説明するまでもありません。こうしたニュース報道を疑問を持たずにストレートに受け止める方々が少なからず存在することを予想すると、薄ら寒い思いが市内ではありません。政府の広報機関に事実上成り下がった感の強い日本のメディアにはもはや多くを期待しませんが、情報統制下になりつつある日本で物言わぬ日本人の将来を憂うるばかりです。

  インドネシアのジャカルタで開催されたアジア大会では、ボランティアには交通費と食費を含め30万ルピア(約2300円)の日当が支給されました。ジャカルタの最低賃金を大きく上回る破格の待遇とのことである。 
 東京五輪で1日あたり1000円相当を支給するいうのは、現金や交通機関のICカードではなく、独自のプリペイドカードを作るという発想にも驚きました。「やってる感」の演出以外のなにものでもない。
 
 日本人の空気を読み過ぎる国民性は、時給125円でも嬉々として働き、炎天下でもよしず、団扇、打ち水、そして大和魂で猛暑を乗り切る覚悟の元に成り立っているのかもしれません。そして犠牲者が出れば、待ってましたとばかり「自己責任」論が飛び出し、一件落着するのではないでしょうか。戦時中の竹槍で敵機を撃ち落とす発想から何ら進歩しておりません。

 ブラックボランティアだけでなく、いまだに文部科学大臣が教育勅語のメリットに言及するなど、日本政府は急速に戦前への回帰を志向しています。五輪にしても、大幅な予算超過にどう対処するのか。アベノミクスの失敗で景気低迷する中、米国から防衛装備品を大量購入しようとしている一方で、生活保護費は切り詰められています。今日では消費増税と円安で、景気はさらに後退しました。

 ところで、沈没船ジョークというのをお聞きになったことがありますか。
 豪華客船が沈没しそうになり救命ボートが足りないという場面で、船長は各国の乗客をどうやったら海に飛び込ますことができるか。あくまでもジョークであり差別的な意図はないことをお断りしておきます。

アメリカ人に対して  「飛び込めば英雄になれますよ。」
イタリア人に対して  「海には美女が泳いでいますよ。」
イギリス人に対して  「紳士は海に飛び込むものです。」
ドイツ人に対して   「規則ですから。」
フランス人に対して  「飛び込むな!」

そして、日本人に対して・・・「みなさん、飛び込んでいらっしゃいます!」

 太平洋戦争開戦直後、日本人の多くが戦争の行く末を極めて楽観視していたことを裏付ける記録がいくつも残っています。国民ひとりひとりが、明らかにおかしいことに対して何も言わず迎合したり、自分の信念より周囲との調和を重視して行動する習慣を断たねば、日本丸はさらなる悲劇の航路を辿らざるをえなくなるでしょう。

(写真と本文は関係ありません)

追伸:

 私の拙文にお付き合いいただいた方におすすめしたいのは、筒井康隆氏の短編「幸福の限界」です。新潮文庫の「おれに関する噂」などに収録されている。賢い先人はすでに今の日本の状況を予言していたかのように感じました。

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