近年よく耳にするようになった、危機管理とはどんな方法論でしょうか。
それを考えるにあたって、非常に参考になる事例があります。
アメリカ大統領が来日して東京都内を車で移動するする際に、日本の警視庁とアメリカのFBIは最初に何を用意する必要がありますか。
沿道の警備でしょうか。ビルの屋上に狙撃手がいないかのチェックでしょうか。ゴミ箱に不審物がないかの点検でしょうか。すべて重要なことです。しかし最初に議論すべき項目ではありません。最初に準備すべきは、大統領の輸血用血液です。すなわち、最悪の事態が起こらないように準備することよりも、最悪の事態が起きた際にも対処できるようにするのが危機管理です。
かつてアメリカの大統領の警備を担送した元警察庁の幹部によると、会議の席上で警察庁が最初にこの話題を切り出すと、テーブルの向こうのFBIはニヤリとして、「お前たちさすがプロだな。」という顔をしたそうです。
次に大統領の車両を日本に輸送するのはアメリカの役目です。何故日本側で用意しないのでしょうか。アメリカ大統領専用車は、タイヤを銃弾で撃ち抜かれてもホイールだけで走行できるような特殊車両だからです。万一の際は大統領を乗せたまま、救急車として病院まで猛スピードで突っ走ります。この際に大統領専用車が通過する先々の病院には輸血用血液が用意されていなくてはなりません。
この話でわかることは、危機管理の大前提に「最悪の状況の想定」があるということです。
危機管理の成功例として1986年に発生した三原山噴火時の官邸主導による全島避難があります。
これに関して私が30代前半の頃、佐々淳行元内閣安全保障室室長から、その経緯をお聞きしたことがあります。
「もし噴火しなかったらどうします」と問う部下の佐々淳行内閣安全保障室長に対して当時の後藤田正晴官房長官は、
「腹でも切ればいいだろう?住民が助かればそれで良いさ」
「佐々君、きみも巻き添えだよ、ワハハ」
と答えたとのこと。
独断での避難命令に大騒ぎするマスコミを避けて都内のホテルに逃げ込んだ後、
「佐々君、島民が無事避難できたね」
「これで大騒ぎになる前に我々も逃げるぞ。ワハハ」・・・
このお話をされた際に、佐々先生は「この危機の最中に霞が関(国土庁など関係省庁)は何をしていたと思う?」と問いかけられました。
「何と、災害対策本部の名称をどうするかを3時間も議論していたんだよ!呆れたね!」
佐々先生は私どもがポルトガルに出発する前の2018年9月にお亡くなりになり、弔問にお伺いしました。
あの独特の笑顔をされた遺影の前で思わず涙がこぼれました。
今佐々先生が生きていらっしゃたら、政府の新型コロナ対策をどうご覧になるでしょう。
危機管理の考え方はリーダーシップにおいても大変重要です。
「危機管理のノウハウ」は佐々淳行先生の名著です。「危機管理」という日本語語を発案されたのも佐々先生です。
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