ノブリスオブリージュ


 欧米社会の道徳観を表現する言葉にノブリス・オブリージュ(Noblesse Obliger)があります。
  

19世紀にフランスで生まれその後イギリスをはじめとする西洋に広がった言葉で、「noblesse(貴族)」と「obliger(義務を負わせる)」を合成した言葉です。

「BUSHIDO(武士道)」を著した新渡戸稲造はこの言葉を武士道と表現しています。
 

「高貴なものが果たすべき義務」、すなわち財力、権力、社会的地位を保持するためには責任が伴うことを表す言葉で、 身分の高い者はそれに応じた社会的責任と義務があるという概念です。

フランスで絶大な尊敬を集めたシャルル・ド・ゴールもそれを実践したひとりかと思います。在任中に31回の暗殺未遂を乗り越えて救国に生涯を捧げました。
 

それが故にド・ゴールが79歳で亡くなった時に、第2代フランス首相を務めたジョルジュ・ポンピドーは、「フランスは未亡人になった」という名言を残しました。 

同じく豊かな老後を棒に振り、アメリカと世界を救うために暗殺未遂を含む数々の苦難を乗り越えてきたドナルド・トランプもノブリスオブリージュの姿そのものと言えるでしょう。
 

シャルル・ド・ゴールは軍人出身、ドナルド・トランプは実業家出身という違いはあっても、ノブレス・オブリージュ、カリスマ性と愛国心、そして大衆の熱狂的な支持において合い通ずるものを感じます。
 

映画「ジャッカルの日」の冒頭で引用されたパリ郊外プティ=クラマールの路上で起きた過激派組織によるシャルル・ド・ゴール暗殺未遂事件においては、弾丸は大統領専用車内のド・ゴールの頭をかすめました。 

タイヤを撃ち抜かれて3輪走行になったにも関わらず、専属運転手フランシス・マルーの超人的なドライビングテクニックとシトロエンDS19のハイドロニューマチックサスペンションがド・ゴール夫妻の命を救いました。  

この車の後部トランクには昼食用の若鶏が積まれていましたが、事故後のドゴールが真っ先に、「鶏は大丈夫だったかね」と訊ねたというエピソードは、フランス人が大好きな話のひとつです。 

シャルル・ド・ゴールは給与を全額寄付し、遺産も遺族にほとんど残さず、墓は名前と年号だけという清廉潔白かつ偉大な指導者でした。パリだけでなく、フランスの至る所にドゴールの名がついた道路や建物があります。
 

ド・ゴールの発した言葉のように、危機に陥った際に発するリーダーのユーモアを西洋人は重視します。その一方で暗殺未遂の直後に、逃げ隠れもせずに拳を振り上げ、国民に「ファイト」を連呼したドナルド・トランプの強靭さと勇敢さは、大統領選での当選と国民の圧倒的支持を確実なものにしました。
 

フランス救国の英雄シャルル・ド・ゴール、そしてアメリカと世界を救うために立ち上がったドナルド・トランプの半生は、初代国鉄総裁の石田禮助氏の生涯とも重なります。
 

石田禮助が誰もが嫌がる国鉄総裁を進んで引き受けたのは、トランプとほぼ同じ年齢の77、8歳、彼の生涯の人生哲学「粗にして野だが卑ではない」はトランプの時として偽悪者を演じる姿を彷彿とさせるものがあります。
 

国鉄総裁という火中の栗を拾った際に、「天国へのパスポートを手に入れた」と語った石田禮助も、トランプと同じくクリスチャンで、35年間を商社マンとして送ったビジネスマンでした。
 

鶴見事故のあとは、月給10万円(当時国鉄総裁は規定で本来30万円)を返上し年俸はウイスキー1本、嗚咽で弔辞も読めなかったという情の厚さは、前回に引き続き年俸1ドルで大統領を引き受け、弱者に寄り添うトランプの姿と重なります。
 

「人の値打ちを役所に決めてもらうのはたまらん」と勲一等叙勲を辞退したエピソードも、その潔さと一貫した人生哲学を感じます。
 

日本が再びこうした優れたリーダーを輩出するためには、国民ひとりひとりがパブリックな存在であるという意識と、政治への参画意識を高めることが求められると思います。

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