奇妙なロシア擁護論

世の中には、今回のロシアによるウクライナ侵攻について、ロシア擁護の持論を展開する方が少なからずいらっしゃるのに驚いています。
 私が見聞きした範囲では、そうした方々の主張の根拠は以下のように分類されると感じました。
(1) ロシア寄りのフェイク動画を信じている
 現地に住む方からの情報によると、数年前よりドゥネツク州に民間人が入ることは命の保証はなく、到底無理とのことです。従って話題になったスペイン人男性記者、そしてフランス人女性ジャーナリストのレポートはフェイクであることが明らかです。
 ところがこうしたフェイク動画を信じた人たちが、まことしやかに、ウクライナ人がウクライナ人を殺害していると嘘のニュースを流しているのです。
 さらにロシアの残酷さが話題になった事例として、マウリポリの産科小児科病院へのロシア軍による空爆があります。ロシアはウクライナ軍による地上攻撃によるものと嘘の反論をしました。
 マリウポリの産科小児科病院で被害にあったMariana Vishnevskayaさんは、AP通信とロシア系メディアに対して、それぞれ異なる内容を語っています。AP通信の取材に関しては「確実なことは言えない」などと証言しています。さらにAP通信は取材の全動画を公開して、Mariana Vishnevskayaさんが取材を断った事実はない、空爆はあったと証言しています。一方ロシア系メディアの取材に関しては場所や経緯に対して一切発表されていません。
 従ってロシア系メディアのフリージャーナリストのインタビューだけから、現場の状況を判断することはできません。申し上げるまでもなく、通信社の記者とフリージャーナリストの取材の信頼性、中立性は一般論で語れるものではありません。
 強い恐怖感から記憶に相違が生じたのか、あるいは脅迫されたのか、いずれにしても心理学的トレーニングを受けた専門家などの判断を仰いだとしても、動画を見ただけでは真相を言い当てることは難しいと思わます。
 ところが、後にBBCの検証動画で、ロシアによる空爆があったこと、また爆撃による穴が存在したことが、Mariana Vishnevskayaさん自身の証言を含めて提示されています。
 さらに他のニュースソースにおいては、現場で 爆撃機の爆音や爆弾による穴の存在はMariana Vishnevskayaさん以外の複数の人が証言しています。またロシア系メディアで語られているマスメディアの到着が10分以内だとしても何ら不思議ではありません。時速5キロで歩けば1キロメートル弱、時速40キロの自動車であれば7キロ弱の地点から駆けつけたことになり、付近で待機していたことにはなりません。爆撃を遠くから目撃して急いで駆けつければ、何ら不思議はない到着時間です。
 ロシア擁護のための材料を見つけたい方は、少なくとも以上のような考察なしに、ロシア寄りの情報に飛びついて、フェイクニュースを配信してしまうのです。
 こうした自分の考えの正当性を主張するため、都合の良いデータや言説だけを引用して、都合の悪いものは無視する詭弁術を「チェリーピッキング」と呼びます。
 こうしたチェリーピッキング、すなわちいいとこ取りの手法がロシア擁護論の中に多数使われているのを危惧する次第です。
(2) 過去のウクライナの内政から、ロシアの軍事侵攻を正当化している
 ウクライナ国内では汚職が横行し、ネオナチ集団によるロシア系住民などの虐殺が行われてきました。さらにゼレンスキー大統領によるテレビ局への言論統制など、少なからず独裁色のある国家体制であることにより、ロシアの軍事侵攻が正しいと信じている人が少なからず存在します。
 しかしこうしたことはあくまでもウクライナの内政問題であり、ロシアがウクライナ侵攻をする正当性は全くないのです。
 特に今回のロシアのウクライナへの軍事侵攻が、ロシアの主張する「迫害されているロシア系住民を救うための特別軍事作戦」でないことは、戦況見れば明らかです。
 ドンバス地方だけでなく、何故キーウを攻撃するのか、何故罪のない民間人を虐殺するのか、禁止されれている対人地雷をなぜ設置するのか、ロシア擁護の方々はこれにどう答えるのでしょうか。
(3)根拠のない陰謀論を信じている
  代理戦争論やディープステートの暗躍など、根拠なき推論を真実と信じてしまっている方も多いようです。
 仮の本当だとしても、開戦の決断をしたのも、停戦の決断をできるのもプーチン大統領に他なりません。
 そもそも民間人を虐殺し、国際法を逸脱したロシアの戦争犯罪を擁護する外的要因はひとつもないのです。
 ウクライナはもちろんのこと、国際社会にとっても、ロシア自身にとってもロシアの戦争犯罪は世界にマイナスしかもたらさなかったのです。
 なおロシア国内においてはいまだに情報統制がされて、多くのロシア国民に真実が知らされていませんが、ロシア国営放送においては討論番組の中でプーチン大統領を批判する意見が出されるなど、反プーチン大統領の世論が少しずつ高まっていることは喜ばしい事態だと感じています。
 ロシアはすでにジュネーブ条約違反、オタワ条約違反、オスロ条約違反、国連憲章違反などの許し難い戦争犯罪を犯したことには変わりありません。
 ロシアは、ウクライナの民間人の虐殺以外にも対人地雷、赤十字への攻撃など、人道上の観点も含め、重大な国際条約違反を犯しています。対人地雷はロシア自体が加盟しているジュネーブ条約に違反しており、特に人感センサーを備えた対人地雷敷設は、ウクライナの復興を大きく遅らせる言語道断な卑劣な行為と言えます。
 根拠のない代理戦争論を唱える方いらっしゃいますが、万一そうしたことが影響したととしても、プーチン大統領が戦争を決断しなければ、すべての悲劇が一切起きなかったのです。
 従って、今回のロシアによるウクライナ侵攻と残虐行為は、国際条約並びに倫理上の観点から、大義名分は一切ありません。
 ロシアによる戦争犯罪は、将来の世界秩序を保つ上でも、厳しく断罪されるべきです。
 何ら罪のないウクライナの人々を虐殺し、ウクライナとロシア双方の兵士が命を落とし、ウクライナの美しい街を焦土と化し、世界経済を混乱させたプーチン大統領の罪の重さを、ロシア擁護派の方々は今一度考えていただきたいと思います。
 とりわけ、台湾有事のリスクも含め、ロシア、中国、北朝鮮という危険な国家に囲まれた日本において、ロシア擁護の奇妙な論調が少なからず広がることを危惧する次第です。
 ナチスドイツと同様の非人道的な残酷行為を行い、ウクライナの主権を侵害したロシアという国の異常さへの認識を新たにするとともに、これ以上ロシアがウクライナの主権を侵害することなく撤退させ停戦させるために、日本と欧米諸国の更なる結束に期待します。
 ロシア擁護の方々は、家族を奪われ、平和な生活を破壊されたウクライナの人たちへの憐憫の情や倫理に基づく公正な判断ができないのでしょうか。
 いかなる理屈を超えて、ロシア擁護論に対する最も大きな疑問は倫理観の欠如です。

リスボン市内にあるウクライナ大使館 Embaixada da Ucrânia na República Portuguesa


 

リスボン市を流れるテージョ川沿いの戦争博物館近くを航行する、ポルトガル海軍のフリゲート艦、NRP “Corte-Real” (F332)

リスボン市を流れるテージョ川沿いの戦争博物館近くを航行するポルトガル海軍の外航巡視船NRP Sines( P362)。
名付け親は、ポルトガルのAntónio Costa首相の妻Fernanda Gonçalves Tadeとのことです。

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